研究紹介
“環境に優しい”エラストマーの開発
1.研究の背景
久留米高専が立地する久留米地域は、日本のゴム産業の草分け的地域で大手タイヤメーカー、履物メーカー、中小ゴム企業が立地しゴム関連企業の集約(約30社)が進んでいます。しかし、現在は、中国等からの安価な海外製品との競合によりタイヤ関係を除いては低迷傾向にあり、また、熟練技術者の引退に伴い、ゴム製品製造に関する蓄積された経験・知識に基づいて現場の課題を解決する「現場技術」の継承が危惧されています。
久留米高専では、開校以来継続してゴムに関する研究が行われており、近隣のゴム関連企業や公的研究機関と共にゴム製品の開発に参画しています。しかしながら、あくまで「現場技術」に関する貢献が主であり、今後、高付加価値製品を久留米地域で開発・提供していく上で、「現場技術」的な貢献はもとより、「学術的」な貢献をしていくことが重要であると考えています。
当研究室では、“環境に優しいエラストマー”の開発を第一に、天然物由来のゴムやフィラーに着目し、石油系ゴムとのブレンドによる新規天然ゴム系複合ゴム材料の配合・物性に関する研究を行い、石油系ゴム単独からなるゴム製品に匹敵する配合組成を追求しています。
2.研究内容
2-1.NR/SBRブレンド系エラストマーの各種特性に関する研究
石油系・天然系問わずゴムにはそれぞれ特筆すべき特性があります。ゴム製品を製造するにあたり、二種以上の原料ゴムをブレンドすることにより、それぞれのゴムが有する特性を併せ持ったゴム製品の産出が期待されます。一方で、単一系ゴムとは異なり、相が複雑化することによる物性低下等も危惧されるため、ブレンド系エラストマーを設計するにあたっては、配合条件の詳細な検討は重要な課題の一つです。当研究室では、NR/SBRブレンド系エラストマーについて、配合条件の違いが材料の力学的特性にどのような影響を及ぼすかについての検討を行っています。ゴムのブレンド手法については、①二種の原料ゴムを混練機中でブレンドし(A配合)、その後各種ゴム薬品を添加して混練する方法(プレブレンド法)②各々のゴムに配合剤を混練してマスターバッチを作成した後(B/C配合)、得られたマスターバッチ同士をブレンドする方法(相混合法)について検討し、得られたブレンドゴムについて各種特性評価(配合特性、加硫特性、力学特性)を行っています。
2-2.農産廃棄物由来の天然フィラーを配合したエラストマーの開発
久留米市が位置する筑紫平野は全国でも有数のコメの生産地です。イネ科植物の農産廃棄物である籾殻・籾殻燻炭は、農業用の土壌改質剤や燃料として活用する以外特に利用価値がなく、大半が廃棄されていますが、近年では、バイオマスとしての有効活用が見られるなど、環境問題に配慮した様々な取り組みがなされるようになってきました。特に籾殻・籾殻燻炭を灰化することで得られる籾殻灰は、非晶質シリカ含有率が90%以上を占めることが知られており、ゴム用補強フィラーとしての応用が期待されます。籾殻灰をシリカ系フィラーとして配合したエラストマーの可能性試験として、良質な籾殻灰を得るための灰化条件の検討やゴムとの配合条件の検討を行っています。